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「地方都市の持続可能性」(田村 秀, ちくま新書)を読んだメモ

2019年最初の読書は、2018年11月に出版された田村 秀さんの「地方都市の持続可能性 」

地方都市の持続可能性 (ちくま新書)

地方都市の持続可能性 (ちくま新書)

これは去年読んだ「行政学講義」の影響。 日本の国政と地方自治体の都市政策の間の関係に関心が湧いたので、まずは地方都市を中心に見た日本の姿を知ろうと思ってこの本を選んだ。

行政学講義 (ちくま新書)

行政学講義 (ちくま新書)

出版社のバイアスもあるはずなので、ちくま新書ばかり読んでる人にならないように気をつけたい...

本全体を通しての感想

著者自身の意見は少なめであり、数値データと都市の歴史を組み合わせた上で「なぜ今この都市は栄えて/衰退しているのか」を捉えていく過程は、納得感があってよかった。

けっして地方都市や日本の未来を楽観視はしないが、逆に悲観しすぎることもない論調。 夕張市を筆頭とする衰退する地方都市に隠れ、北海道三笠市のようにここ数年の政策によって若年層の誘致が進んでいる自治体もある。 これらの地域の間にどんな違いがあるのかを、個別のケースの特徴を押さえながら学んでいけた。

やはりポイントとなるのは東京一極集中による悪循環。経済だけでなく災害に強い国を作る上でも、中央官庁の分散は必要そうだと感じた。 地方都市の現状を客観的なデータをもとに知るにはおすすめの一冊だった。ぜひおすすめしたい。

内容のざっくりしたまとめ

第一章 データに見る東京ひとり勝ち

  • 国勢調査や各省庁、地方自治体などが公開している様々な数値データをもとに、現在の東京がどれだけ「ひとり勝ち」しているかを客観的に見る章。
  • 人口だけでなく経済活動、その他あわせて7つの指標で比較するが、時系列ごとの変化率も踏まえての評価は、著者の地道な労力を感じた。データそのものは誰でも手に入れられるものだが、このまとめ方はなかなか真似できないと思う。
  • 人口は3000人に満たない小さな漁村だが、北海道猿払村は徹底した資源管理で日本一のホタテ産地となり、稼げる漁業を実現している。村民の多くは高額所得者で、多いときでは村民の平均所得は780万円を超えることもあった。高齢化率も全国平均を下回り平均年齢は約45歳。稼げる仕事があれば地方でも若者は集まってくるし、小さくてもコミュニティは持続する、ということは間違いではなさそうだ。
  • また、人口が少ないが栄えている事例として大企業を誘致する例もあったが、これはその企業の城下町となり、企業の業績で地域が衰退することもあるため、諸刃の剣だ。
  • 東京に人口は一極集中しながらも、出生率は東京が最低であり、少子高齢化の原因の一端ではないかという考察。

第二章 誰が都市を殺すのか

  • 国や地方自治体がおこなう政策が都市に与える影響を考える章。
  • 2045年の数値予測を見ると、人口減少は一律に進むわけではない。 秋田県2045年には2人に1人が高齢者となる。東北地方自体の存続が危うい。
  • もっとも人口減少数が顕著なのは大阪市。2015年から2045年で28万人以上減る。大阪市に続くのが長崎、横浜、神戸、北九州などの政令指定都市や、横須賀のような軍港都市
  • これらの衰退に対してこれまで国は何をしてきたのか。

平成の大合併とはなんだったのか

  • 平成の大合併とはなんだったのか。単独では財政基盤が維持できない自治体が合体することを国が推奨し、補助金を出した。国主導であったことがポイント。
  • 合併について、行政側は業務の効率化を肯定的に見る声が多いが、合併により広域化した自治体のなかで中央部と周辺部のサービス格差が広がり、かえって活力を低下させているという住民側からの評価もある。
  • 本来合併すべきは、ともに栄えている地域同士を統合することで類似施設の無駄をなくすといった効率化を促す方向性であるはずなのに、弱者連合のように進められた平成の大合併は市町村がもともと担っていた住民に対する細やかな行政サービスを減らす方向に作用する。これを国が推進したことで地方衰退が進んだという見方。
  • 東京23区を再編することも検討できるのではないかという著者の意見。
  • いずれにしろ、合併を国が推し進めるのは地方分権からは逆行するものであるとして避けるべきだろう。

道州制について

  • 道州制を強く主張する経済界、特に電力業界(実態として電力会社のブロック分けはほぼ道州制である)が原発事故などで政財界に強く意見できなくなっているのがなかなか進まない原因じゃないかという意見。
  • 道州制によって国の責務は外交と国防に寄ったものになる。行政サービスは道州と市町村が担うものになれば、真の地方分権社会が実現するだろうというのが狙い。
  • 大阪都構想道州制の先にある、道州 - 基礎自治体の二層構造の解説。大阪は解体され、大阪府大阪都大阪市もなくなるだろう、ということを市民は認識しているのかという著者の危惧。
  • 道州制の議論は一度しぼんでしまったが、著者は今一度メリット・デメリットを議論する価値があると指摘する。

首都移転は可能か

  • まずは世界の事例を見ながら首都移転の実現可能性を検討する。
  • 多くの国で首都に全機能が集中することには不満の声が上がっている
  • ワシントンは経済の中心ではない。韓国でも首都機能の一部を移転する動きがある。
  • 日本は東京23区内の大学が定員を増やすことを2018年〜2028年まで認めない方針を決定している。現在、大学生の41%は東京圏に、18%は23区内に集中している。
  • 批判もあるが、これからの首都機能の分散を考えればこれさえ実現できない限り無理だろうという著者の意見。

第三章 国策と地方都市

  • これまでの日本の歴史のなかで、国策によって地方都市がどのように栄え、衰退してきたかを江戸時代までさかのぼって考える章。
  • 江戸時代に人口が増え続けたのは都市ではなく農村だった
  • 農業こそが政治基盤であり、農村を守るために幕府は帰農令や人返し令などを出して都市から農村へ人を帰した。江戸などの大都市の人口増加は国策により抑制されていた。
  • 江戸の人口は男性過多で、住宅も狭かったため出生率が低かった。都市に人口が集中すると全体として自然減につながる。これは現代東京と通じる部分であるが、江戸時代は農村を重視していたのが違うところ。
  • 江戸時代から明治時代にかけて存在感を示したのは日本海側の都市。北前船による貿易の影響。その後130年かけて日本海側はだんだんと沈んでいく。多くの人が東京へ出稼ぎへいき、北海道開拓へいき、1900年台には太平洋ベルト地帯への流入が進んだ。
  • 国策により栄えた都市は、東京をはじめとする大都市を支えるための存在だった。人材供給源となったり、地方での利益が東京本社へと流れていく構造によって東京が栄えていった。

鉱業都市

  • 明治以降、石炭や金銀などの鉱山が日本産業を支えるようになったが、国のエネルギー政策の転換により一気に衰退した。
  • 北海道三笠市炭鉱都市として栄えたあと衰退したが、その後の政策によって他の炭鉱都市とは大きく変わってきている。魅力的な高校を作り、15歳の人口を伸ばすことに成功している。これが持続するモデルかどうかはこれから次第。
  • 軍艦島のように観光地への転換がうまくいくケースもあるが、身の丈に合わない開発で失敗する夕張市のような事例もあり、それぞれの地域と向き合った持続的な地域振興が重要である。だが、観光で生き残れる都市はそう多くはないという現実を受け止める必要はあるし、企業誘致も熾烈な競争になる。その意味で、外部に頼らず次世代を育てる施策をとった三笠市はもっと注目されるべき。

北海道

  • 国策により開拓と開発が進められたが、100年後のいま、函館市小樽市釧路市は人口減により過疎地域に指定されている。札幌市ひとり勝ち。
  • 新幹線効果は一時的になりがちであることを考える必要がある

第四章 都市間競争の時代へ

  • いま栄えている都市はどのような状況なのか、都市間の競争はどうなっているのかを知る章。
  • 日立市豊田市のように企業城下町として生き残っている都市と、亀山市のように一時繁栄したが沈んだ都市もある。企業城下町にはリスクもある。
  • 愛知県飛島村中部電力三菱重工トヨタなど大企業の施設が集まっている。人口は4400人程度だが昼間人口は14000人を超え、千代田区並みの昼夜人口比になる。財政力指数日本一であり、栄えているようにみえる飛島村も人口は減少中で、消滅可能性都市になっている。経済力だけでは地域は持続しない。

代表的なライバル都市の比較

  • さいたま市川崎市はどちらも明治時代には小さな町だったが、地の利を生かして100万都市のベッドタウンになった。
  • 東京を挟んださいたま市川崎市は同じように成長し、人口増加も同じような傾向を示している。子育て世代の割合も高いが、将来的にはその世代の高齢化が一気に進む。財政に余裕のある今のうちに大作が必要だろう。
  • 群馬県前橋市高崎市はライバル関係にあるが、両市とも人口減少を迎えている。合併の議論もあるが、古くからの確執もあり、実現するかどうかはわからない。
  • スポーツやビジネスでは競争は成長の糧となるが、都市においてはそうではないこともある。互いに似たような政策を取ることで共倒れすることもある。人口減少のなかで新たな施設を作るよりも県立病院や県立高校が縮小されていく流れにあり、それらを失う市町村は苦しくなる。都市間だけでなく都市と都道府県の関係、あるいは都道府県同士の競争も激しさを増していくだろう。

第五章 人口減少時代に生き残る都市の条件

  • 最後のまとめとして、第四章で述べたような競争のなかで生き残るための条件を考える章。この章は著者の意見や持論が割合多くなる。
  • 都市が栄えていることを人口増を切り離して考える必要があるだろう。中高年層の移住を進めても将来的には福祉の経費が財政を圧迫する。外国人労働者を受けていれても望ましい行政サービスを与えられないと社会問題になる。
  • 人口増を目指すのではなく、人口減の幅を小さくする、あるいは今より少ない人口でも持続する地域社会を目指す流れ。経済的な豊かさも、地域の身の丈にあった地域経営への転換が必要。
  • 定住人口だけではなく、交流人口や関係人口を増やしていく。地域のファンを増やすための努力。そのためには閉鎖的な地域コミュニティの意識を変える必要がありそう。
  • ふるさと納税が問題視されているが、寄付の文化が定着していない日本でこのような風習を生んだことは大きな貢献。大都市の税金の使われ方への不満の表れでもあり、ふるさと納税によって市民が自分の税金の使われ道を意識することは地域活性化にも役立つだろうと、著者の肯定的な意見。
  • 郊外への大規模ショッピングセンターの出店による空洞化現象は、自治体の都市政策を見直すべき。郊外に安く出店してまた次へ、という焼畑的なまちづくりは地域を枯らしてしまう。
  • 東京も災害に強い都市に作り変えなければならない。再開発による超高層ビルの乱立が進められているが、集中した人口を災害時に守る力はない。まずは国の機関から地方移転をはじめることで、経済の流れを変えていく必要があるだろう。

次に読む本

今回は地方都市を持続させる視点で日本を見たので、今度は日本という国を発展させる視点で書かれた本を読もう。 ということで、最近出版された落合陽一さんの「日本進化論」を読むことにする。

日本進化論 (SB新書)

日本進化論 (SB新書)

それでは。みんなも読書感想文見せてほしい。