人が足りないとはどういうことか
「人が足りない」というのは、「必要な人的資源」に対して「現有の人的資源」が不足しているということである。つまり、「人が足りない」を構成するパラメータは2つあり、「人が足りない」というのは2つのパラメータのバランスを表現しているにすぎない。「現有」が十分かどうかはそれ自体では判断できず、「必要」に対しての相対評価にしかならない。
2つのパラメータの状態は「A<B」「A=B」「A>B」の3種類しかない。そのうちのひとつが「人が足りない」状態である。
人が足りることはあるのか?
3つの状態「不足」「充足」「過多」は、それぞれどのような状況で起こると考えられるだろうか。
「人が十分」であるというのは「必要」と「現有」がイコールであるということだが、持続的にそういう状態になるためには「必要」が長い間変わらないという条件がある。「必要」が中長期的に変わらないことを見越して、それにマッチする人的資源を割り当てれば、「必要」と「現有」がイコールの状態が作れる。 逆にいえば、「必要」がダイナミックに変化するような状況では、「現有」は「不足」と「過多」を行ったり来たりすることになり、「充足」にとどまることはない。
では「人が余っている」状態はどのように起きるのだろうか。この状態が持続する条件はひとつしかない。それは「欲望を持たないこと」である。 何らかの欲望がある限り、「現有」はその欲望を満たすために使い尽くされる。そして欲望が満たされれば、それを前提として新しい欲望を生み出す。それが繰り返され、結局は「人が足りない」状態にまで到達してはじめて活動は停止する。
つまり、組織が何らかの欲望を持ってしまう限り、中長期的には必ず「人が足りない」状態にしかならない。人が増えたとしても、短期的には「充足」や「過多」になることはあるが、欲望はそれでも「不足」するような 新しい「必要」 を生み出してしまう。ましてや現実には組織から人が抜けることもあるのだから、組織が欲望を持つ限り、絶対に「人が足りない」状態にしかならないのだ。
「優先順位」で短期的な「充足」を作る
つまり、「人が足りない」というのは特殊な状態なのではなくて、むしろ欲望を持つ組織にとっては自然な状態、時間が経てばかならずそうなる基底状態であると言える。そうであるからこそ、組織においては優先順位が必要になる。
なんでもできる資源があるなら何から手を付けてもすべて達成できるのだから、優先順位について考える必要はない。優先順位を決めるというのは、「現有」を基準にして「充足」するまで「必要」を減らすということであって、「どの順番に欲望を諦めるか」を決める意思決定である。 言いかえれば、優先順位とは短期的な「充足」を作るための作業である。したがって、最優先だとされるものだけ考えてもまだ「不足」しているなら、その優先順位設定は失敗している。まだ欲望を削りきれていない。
「必要」をどこまで分解できるか
組織が欲望を持つ限り、「人が足りない」状態は不可避であるし、むしろ自然な状態である。そして、何かしらの目的を持った組織であれば欲望を持たないわけにはいかない。そうであれば、組織にできることはいかに短期的な「充足」を作るかである。
ひとつの方法は、「必要」をコントロールすること。少しでも多くの欲望を満たすための優先順位を決め、最優先の欲望に限れば「充足」している状況を作ることである。最優先の欲望すら「不足」するのなら、欲望の分解が足りていないか、もはや何の欲望も持てないまでに「現有」が少ない。後者であればすべてを諦めよう。
もうひとつの方法は「現有」を増やすこと。だが人を増やしたり、成長させたりして「現有」を増やすことができたとしても、それによって生じる「充足」はそれを前提とした新しい「必要」によって使い果たされる。そのため、「必要」のコントロールは、作り出した「充足」を少しでも長続きさせるためには不可欠である。
- 「人が足りない」は欲望を持つ組織にとって不可避の自然状態である
- 「充足」「過多」は欲望を持つ限り持続しない
- 優先順位によって「必要」をコントロールすることで、短期的な「充足」を生み出すことができる
- 最優先の欲望ですら「不足」するのなら、その優先順位付けは失敗している