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読後メモ: 落合陽一著「日本進化論」、高島宗一郎著「福岡市を経営する」

今年の2冊目と3冊目をまとめて読後メモ。

田村秀氏の「地方都市の持続可能性」を読んだので、別の目線で日本を見た落合陽一氏の「日本進化論」と、ひとつの地方都市の内側からの目線で書かれた高島宗一郎氏の「福岡市を経営する」を読んだ。

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落合陽一著「日本進化論」

日本進化論 (SB新書)

日本進化論 (SB新書)

そこそこにおもしろかった。 落合氏の言説は以前から特に変わっておらず、人口減少こそ機械、AIによる自動化の大義名分であり日本がこれからテクノロジーで進化するためのチャンスであるという話だった。 この本の中心になっているのは「ポリテック」で、技術で政治をアップデートすることから日本の進化が始まるという主張だ。

日本の政治の問題点は次のように述べられている

巨額の債務を抱える政府と既得権益に執着する企業に阻まれ、なかなか未来のための投資に踏み切れていない日本

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戦後につくられた社会制度の多くが耐用年数を過ぎて劣化し、様々な局面でポリティクス(政治)が機能不全を起こしている現状

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もっと低いレベルの話をすると、そもそも今の日本の政治は、テクノロジーにオープンではない。たとえば国会で、本会議はパソコン持ち込みはダメ。委員会で認めていないところもある。議論に必要な調べ物をするために会議中にスマートフォンを触っているだけで嫌な顔をされる

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主要国の中で唯一Ph.D取得にお金がかかる国でもあります。  結果、日本の博士号取得者数は減少するという、世界的に見ると異例の事態を招いてしまっているのです

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まとめると、わが国のリソース投下には2つ大きな課題があります。1つは、シニア層と過去へのリソース投下があまりにも重く、未来に投資できていない点。2つ目は、インフラ投資があまりにも重くて、都市集中型の未来しか描けていない点

これを打破するためにポリテックのムーブメントが必要だというのが落合氏と、対談相手の小泉進次郎氏の主張だ

政策が決められる過程で出てくる政治・経済といったあらゆる論点の中に、「テクノロジーの観点から見るとどうなのか?」といった視点を新たに加えたいのです。これは医療におけるセカンドオピニオンのようなものと考えるとわかりやすいと思うのですが、そうすることで、政策の意思決定過程に多様性が生まれる

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語られる環境を整備するのは大切です。たとえば、金融界では誰もが口を揃えて「フィンテック」の重要性を叫んでいる。それを「わかった気になっているだけなんじゃないか」と批判する人もいますが、僕はそれをあまり否定的に捉えていません。「フィンテック」という言葉が普及しているだけで一歩進んでいると思うからです。議論に上がるのとそうでないのでは大違い

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僕はまず、このポリテックという言葉をみんなが使うところからスタートすべきだと思います。言葉は魔力を持っています。最初のうちは意味がはっきりしないまま、ただのバズワードとしてツイッターでつぶやかれるだけかもしれませんが、そのうち人々の間で共通の観念が育まれ、言葉への理解が深まることで、そこから地に足が着いた議論がはじまるのを期待したい

5Gや日本版GPSなど、具体的なテクノロジーの進歩の話もあるが、大枠としてはポリテックという概念を定着させようという思いが見られる本だった。

ただし、ネットワークの進歩によりどこでも働けるようになるから地方にもチャンスがある、というのは「地方都市の持続可能性」を読んだあとでは楽観的に映った。

テクノロジーを活用すれば、「どこでも学べて、どこでも働ける」状況をつくり出すことができます。すると、今後は地方のほうが有利なケースも次々に生まれてくる。食や自然の魅力も今まで以上に人を呼び込む力になる

高島宗一郎著「福岡市を経営する」

現福岡市長の高島氏による出馬から今に至るまで、何を考え何を行ってきたかを語った本。高島氏の著書はこれが初。

福岡市を経営する

福岡市を経営する

非常におもしろかった。おすすめ。 アナウンサーからいきなり地方都市の市長になった高島氏がなぜここまで福岡を急成長させられたのか不思議だったが、この本を読むと納得できた。 福岡に興味のある人はぜひ読んでみると良いと思う。

心構えや考え方などの話が多いが、これまでに取り組んできた施策、活動の裏話もある。

私もひとりの人間ですから「大変だな」と思うこともあります。そんなとき私は「よし、市長を辞めよう」と自分に言ってみるのです。私は誰から強制されたわけでもなく、ただ自分の意志で立候補しただけ。私の人生だから、私の自由。「ならば辞めたらいい。次にやりたいという人はいくらでもいるから、心配しなくていい」と、自分に言い聞かせるのです。 ... (中略) ... すると「いや、やっぱり、辞めるわけにはいかない」と思い直すのです。そして「自分はこの仕事をしたいのだ」と決意を新たにします

この本で語られているが、高島氏の目的は日本を活性化することであり、そのためには地方が自立して活性化することが重要だと考えている。 他の地方でも若い首長を増やすことで、若い世代の力で日本を変えていこうということを繰り返し述べている。

日本社会にもっとも足りないダイバーシティは「意思決定層に『若者』がほとんどいない」ことだと思っています。 これは企業でも政治の世界でも同じです。若い人たちに理想の社会のイメージがあるなら、誰かが行動してくれるのを座して待つのではなく、若い自分たちこそが立ち上がって世の中を変えればいい

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この本を通して、私の経験をみなさんとシェアすることで、全国の若者はもちろんのこと、行政とは関係のない他業種からも、市長や知事に挑戦しようという人が増えることを心から期待しています。若い首長がスピーディーに各地方を変えていくことこそ、日本を最速で変えていくもっとも合理的な方法だと思うのです

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日本という国は、それぞれ個性の異なる地方の総体であって、地方都市がそれぞれの個性で最高に輝くことで、結果的に、国が宝石箱のように輝くことができる。 つまり、地方都市をよくすることが、最速でこの国を変えることになる

この一節は、非常に高島氏の本心が現れている気がした。

有識者と呼ばれる人たちが「これからは成長ではなくて成熟である」などと、したり顔で解説しているのを見ると、嫌悪感を抱きます。 私たちの世代は、高齢化時代の福祉を支えるためだけに生まれてきたわけではありません。理屈や理論ではなくて、現実に成長・成功する喜びを感じたいのです。アジアをはじめ、世界を見渡すと、責任世代である同世代の人たちが、夢を持ってビジネスを大きく成長させようとしています。そういう成長を我々も夢見たいのです

福岡市の発展は、政令指定都市の裁量と、国家戦略特区の自由の2つが合わさったことが重要だと思う。 現代において都道府県という単位の位置づけが微妙になっていることは「地方都市の持続可能性」の中でも述べられていた。 だからこそ道州を設置し、県を廃止することで大阪市や福岡市のような都市がより動きやすくなるのだと思う。 高島氏も、次のように述べている。

私はこのようなチャレンジを行なううえでは、県並みの「権限」から基礎自治体としての「現場」までを一気通貫に持つ「政令指定都市」がもっともロールモデルを作りやすいと考えています。 しかも、福岡市は国家戦略特区ですから、内容によっては国の規制緩和も適用されます

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国政とは異なり、予算権と人事権を直接選挙で選ばれた首長が握る地方は、国よりもスピーディーに物事を変えることができる

また、本のタイトルにもあるように高島氏は経営者のように政治を行なっている様子が見て取れる。特に民間とのコラボレーションには積極的で、いかに税金を使わずに効果を上げられるかの戦略がうまい。

市長に就任して最初に行なったのが、広報、報道部門を束ねて「広報戦略室」に衣替えすることでした。「どの媒体に行政のお知らせを掲載するか」などという牧歌的なやり方ではなく、ターゲットに合わせて、伝達するコンテンツや時期、媒体などを戦略的に選び、市役所組織としてその情報発信のノウハウを蓄積するようにしたのです。

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企業において労働生産性の向上が大きな課題であるように、行政においてもその課題の重要性は変わりません。それは地方自治法にも「最少の経費で最大の効果を挙げなければならない」と記されているとおりです。そしてその実現のためには行政として民間ノウハウの活用は必須ともいえます

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市民が自ら参加することでシビックプライド、つまり住んでいる街への誇りにもつながるでしょう。行政だけがまちづくりをするのではなく、市民や企業、NPO、大学生などのみなさんと一緒にまちづくりをする。これは間違いなく、世界のトレンドになっていくはず

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行政がこれまでしていたことを市民と一緒にやることで、自分の街に対する誇りと愛着が強化され、さらに税金をできるだけ使わずに持続可能ないいまちづくりが実現できる。これはとてもすばらしいアイデアだと思いました。「他の誰か」ではなく、「自分たちで」街をいい方向に変えていくのです

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これからは、民間の活力を最大限に活かしながら課題解決をしていくことが大切になります。そのためにも、規制緩和で民間が活躍できる「あそび」の部分を作りながら、市民にとっても企業にとってもウィンウィンになる施策をできるかどうかが重要です。もはや都市間競争は税金の投入ではなく、知恵比べの時代なのです

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新しいビジネスを生み出すのは起業家ですが、社会がそれを受け入れるかどうかを規定するのは政治なのです。法や規制を緩和させるためには、行政と首長、議会の力学、さらには官僚、政治家の行動原理を理解する必要があるのです。 政治家も経済を知る必要がありますが、同じように経済人も政治を知る必要があります

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福岡市は、このようなテクノロジーを支えるエンジニアに注目しています。そして2018年に「エンジニアフレンドリーシティ福岡(Engineer Friendly City Fukuoka)」宣言を行ない、優秀なエンジニアが集まり、活躍し、成長できる取り組みを、行政とエンジニアで一緒にスタートしました。優秀なエンジニアがいるからこそ、とがったビジネスを形にすることができます。スタートアップがユニコーンに成長するためにも、世の中を変えて行くような新しいビジネスやサービスを次々に世に送り出すためにも、優秀なエンジニアの存在は極めて重要なのです


次は少し毛色を変えて、MaaS (Mobility as a Service) についての本を読むことにする。

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ

今年に入って3冊、日本や地方都市の持続性についての本を読んだが、地方都市と都心の最大の違いは公共交通機関の力だと感じている。人間が移動しやすいということは企業にとっても人にとっても、経済活動の中心としては必須だろう。しかし東京並の公共交通機関は金の面でも人口の面でも他の都市では真似できない。そこでMaaSが地方都市が持続的に発展するためのキーになるんじゃないかと踏んでの一冊を選んだ。

読み終わったらまた読後メモを書く。