読後メモ: 「MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ」
いつもの読後メモ。 今回は日高 洋祐他著の「MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ」。
- 作者: 日高洋祐,牧村和彦,井上岳一,井上佳三
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2018/11/22
- メディア: 単行本
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本の概要
この本はMaaS(Mobility as a Service)について、基本的な考え方から実践的な事例、今後を見据えたアクションプランまで網羅的に解説している。 海外の事例は実際に体験した生の情報が多く書かれていて、現実感と納得感のある内容だった。
本書には専門的な内容も含まれるが、おのおの興味のある章から読んでいただき、そこから関連する章に興味の赴くまま読み進んでもらえれば幸いだ。読者の皆様が、広く深く「MaaSの世界」に入り、ビジネスを成功させるうえで役立つものとなることを願っている
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そこで、海外を含めて少しでも筆者たちの見聞きしたこと、感じたこと、考えたことを日本に伝えたい。また、MaaSの「本質」及びその「先」にある交通および社会、あらゆる産業のビジネスモデルの変革が、果たして危機なのか、輝ける未来なのか。モビリティの世界に閉じるのではなく、日本再興を期する全産業のチャンスとして捉え、MaaSのその先にある「Beyond MaaS(ビヨンド・マース)」の答えを、本書をきっかけとして読者の皆様と創り上げていきたい。これこそが、筆者たちが本書を世に問う一番の動機である。
かなり濃厚でMaaSについて全体像から細部まで解説されていて、読み応えがあった。MaaSについて知りたい人はぜひ一冊目に読むと良い本だと思う。
内容の紹介
本の序盤ではMaaSとはいったい何を指し、何を指さないのかについて、観念的な話題を中心にしている。
日本ではウーバーテクノロジーズに代表される配車サービスなどの単一のモビリティサービスを指してMaaSと呼ぶ向きもあるが、それはMaaSを構成する一要素でしかない。利用者視点に立って複数の交通サービスを組み合わせ、それらがスマホアプリ1つでルート検索から予約、決済まで完了し、シームレスな移動体験を実現する取り組みが、グローバルスタンダードで示すところのMaaSである。
MaaSは「理想の移動体験」の実現を目的としたひとつの手段であることが肝要である。 その発祥は北欧、フィンランドにある。およそ30年ほど前から、ヨーロッパでは自動車社会からの脱却を目指すムーブメントが起こっている。
自動車利用に依存した社会からの脱却の1つとしてフィンランドから生まれた新たなサービスがMaaS(Mobility as a Service、マース)であり、世界中で注目されるようになった。 MaaSとは、従来のマイカーや自転車などの交通手段をモノで提供するのではなく、サービスとして提供する概念である
30年、ほとんど平成まるごと出遅れているわけだが、日本でも2018年にようやく政府の戦略の中にはっきりと「MaaS」が提言されている。日本のモビリティ革命はこれから始まる。
一方、日本では、政府の成長戦略として 18 年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」において、初めて「Society 5・0」の実現のためのフラッグシッププロジェクトとして、MaaSが位置付けられた
中盤からは、具体的なMaaSの事例をもとに、どのように社会実装されるのが望ましいのかについて考察している。
キーとなるのは、マイカー依存を脱却することで浮く財源を公共交通機関へ流していくことである。
公共交通の質を高めるためには投資が必要だが、マイカー依存が進んだ社会で、公共交通に投資をするのは難しい。利用者が少ないから利益が出ないし、だからと言って税金を投入しようにも、マイカー利用者からの支持を得ることが難しいから
公共交通への投資が進めばよりマイカー無しで暮らしやすい地域ができていく。MaaSはその好循環を生み出す鍵になる。
つまり、MaaSがビジネスとして成功するほどに、地域でマイカーのエコシステムを維持するために使われていた資金が、公共交通を潤すことになるのだ。 公共交通に資金が回るようになれば、必要な投資ができるようになり、公共交通の質が改善する。それは公共交通の利便性・快適性を高めるから、公共交通へのシフトがより進む。こうした好循環によって公共交通の質が改善していくことが期待される。
日本の地方都市は車への依存度が高すぎて、駅前は自動車用の広大なロータリー、市街地の一等地がどんどん駐車場に変わっている。誰も歩かないから店が寂れ、駐車場に変わり、さらに歩いて訪れる場所が減っていく悪循環に入っている。
完全にクルマ社会になっている日本の地方都市は、一般に、歩いていける範囲に出ていきたくなるような場所がない。中心市街地は寂れているから、休日の過ごし方といえば、特定の趣味がある人を除き、郊外のショッピングセンターに行くのが関の山ということになる
ヨーロッパでは10年以上先行した脱マイカー依存の取り組みにより、歩いて楽しい街づくりが出来上がっている。 これからの地方都市は歩いて楽しいコンパクトな町をどうやって作るかが重要になる。
対する欧州の地方都市は、そんなに大きくなくても中心市街地に常に人の往来があり、にぎわいがある。中心部には路面電車が走り、クルマがなくとも移動ができて、ウィンドーショッピングをしたり、公園やカフェでのんびりしたりできる。休日は広場にファーマーズマーケットが立つから、朝から大勢の人でごった返す。すべての地方都市がそうだというわけではないが、衰退していない欧州の地方都市に共通するのは、歩いて楽しい町、クルマがなくても移動に困らない町になっているということである。
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歩いて楽しくて、移動に困らない町になっているのは、そういう方向での足づくりとまちづくりの努力を弛まずに続けてきたからだ。クルマ社会になるに任せて無計画にまちづくりをしてきた日本とはそこが大きく異なっている。
終盤からは、MaaSが与えるこれまでの産業、経済構造への影響や、これから各事業者がどのようなアクションを取っていくべきかの提言になっている。 キーとなるのは新たなモビリティを社会に投入していくための規制緩和と、それらが統合されるために官民で取り組むプラットフォームづくりである。
それぞれ独立して企業活動をしてきた鉄道会社や自動車メーカーも、新たに生まれるMaaSの統合プラットフォームの下でのビジネスになりかねない。音楽業界やエンタメ業界、旅行業界、出版業界など、さまざまなコンテンツ業界がプラットフォームビジネスの波に飲み込まれていることと同じだ。 「自分たちの仕事だけ頑張っていればいい」という時代は終わった。既存事業の延長線上でMaaSを捉えないほうがいい。世界がそう変わっていく、実際に変わりつつあることは、MaaSに取り組む理由を考えることと並行して念頭におくべきであろう
他にも紹介したい引用はいっぱいあるが続きは読んでほしい