余白

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「ファスト&スロー(上)」という本がすごく良かったので紹介したい

これは読書感想文です。ダニエル・カーネマンという心理学者が書いた「ファスト&スロー」という本の上巻を読み終わったので、学びだなーとおもったところとかを紹介したい。

なんで読んだのか

ダニエル・カーネマンはノーベル経済学賞を取った心理学者です。 行動経済学みたいな分野に最近興味があり、そのへんを学ぶ上でまず読んだほうが良さそうだなと思って読んでみた感じ。 ちなみに下巻はまだ読み始めたばかり。

印象深かった部分

Kindleで読みながらちょこちょこマーカーいれてたところをシェアします。 ちなみにKindleでいれたマーカーは https://read.amazon.co.jp/kp/notebookにアクセスするとPCから全部見られるので読書感想文に便利。

"学校補助金の増額案に対する賛成票は、投票所が学校の場合、そうでない場合よりも有意に多かった"

これは「プライミング効果」について解説される中での事例で、アメリカのアリゾナ州の選挙で実際に起きたことらしい。 「プライミング効果」は先行して受けた刺激(プライム)によって後の思考・行動・意識が影響される効果のことをいう。 何か重要なことを判断するときには、その判断に影響するようなプライムに触れていないかどうかを振り返ろうと思った。

"人物描写をするときに、その人の特徴を示す言葉の並び順は適当に決められることが多いが、実際には順番は重要である。ハロー効果によって最初の印象の重みが増し、あとのほうの情報はほとんど無視されることさえある"

何か列挙するときには順番に気をつけて、ハロー効果を利用する、というよりはハロー効果によって損しないように気をつけようと思った。 あと、ハロー効果に受ける影響を小さくなるようにしたい。

...議題について討論する前に、出席者全員に前もって自分の意見を簡単にまとめて提出してもらうことだ。こうしておけば、グループ内の知識や意見の多様性を活かすことができる。通常の自由討論では、最初に発言する人や強く主張する人の意見に重みがかかりすぎ、後から発言する人は追随することになり...

これは大事やな、という気がした。仕事にも活かせそうな気がする。

"ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。むしろ手元に少ししか情報がないときのほうが、うまいことすべての情報を筋書き通りにはめ込むことが..."

人間は見たものがすべてで、その断片的な情報を経験とステレオタイプで繋いできれいなストーリーを作ることで納得してしまうという話。

プログラミングしてても似たようなことがある気がして、よくわからんエラーの原因を探るときにどうしても「何か決定的な原因があるはず」と思うところから始めている気がする。 そのエラーが起きそうなストーリーを組み立てて、それを辿っていってバグを見つける作業は多くの場合うまくいくのだけど、たまにうまくいかない。そういうときは複数の並行する処理による副作用だったり、ランダム性の高い複雑な連続した確率の低い現象だったりする。

私たちは、人生で遭遇する大半のことはランダムであるという事実を、どうしても認めたくないのである

コンピュータ上は一見すべてに因果関係があり整合した世界にも見えるけども、必ずともそう言いきれないなということもあり、因果関係に縛られず目の前に起きていることをちゃんと受け入れようと思う。バグは解明するものじゃなく解決するものだ。

"自分の選択について、その根拠を多く挙げさせるときのほうが、少ないときより、選択の正しさに自信が持てなくなる"

これは「利用可能性バイアス」についての項で出てくる一節。 たくさんのことを思い出すとき、思い出しやすいことは前半にすぐ出てくるが、だんだん思い出しにくくなってくる(「利用可能性」が下がる)。 そうすると脳はそのことを思い出すことは難しい==あまり存在しないのではないか、と錯覚し始める。

「自己主張をしなかった例を十二個書き出してください」と言われて思い出した人と、「六個書き出してください」と言われた人では、その後の「自分は自己主張が強いと思うか」という質問への傾向がまるで違う、という。 逆の例では、改善点を多く挙げるように指示したクラスほど、講座に高い評価をつける、という。だんだん改善点の利用可能性が下がることで、「改善点あんまりないな」と錯覚し始める。

アンケートの作り方というか、質問の構成で回答者の判断に影響できるのは怖いなと思った。

"このような「結果バイアス(outcome bias)」が入り込むと、意思決定を適切に評価すること、すなわち決定を下した時点でそれは妥当だったのか、という視点から評価することはほとんど不可能になって..."

上巻の終盤はこの「結果バイアス」に関する話だった。一度結果を知ってしまうと、その結果がなかったとしたら、という視点で思考することは困難になるということ。 関連して覚えておきたい文章がいくつもあった。

私たちは、決定自体はよかったのに実行がまずかった場合でも、意思決定者を非難しがちである。また、すぐれた決定が後から見れば当たり前のように見える場合には、意思決定者をほとんど賞賛しない。ここには明らかに、結果バイアスが存在...

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標準的な業務手続きに従ってさえいれば後からとやかく言われる心配はない、というわけで、自分の決定が後知恵で詮索されやすいと承知している意思決定者は、お役所的なやり方に走りがちになり、リスクをとることをひどくいやがるように...

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たまたま幸運に恵まれたリーダーは、大きすぎるリスクをとったことに対して罰を受けずに終わる。それどころか、成功を探り当てる嗅覚と先見の明の持ち主だと評価される。その一方で、彼らに懐疑的だった思慮分別のある人たちは、後知恵からすると、凡庸で臆病で弱気ということに...

組織で何かしら問題が起きたときにその犯人探しが執拗に行われ、本質的な解決が後回しになりがちになってしまうようなことは世間ではよくあることだけど、これは「このトラブルを引き起こす決定が何処かに存在したはず」というストーリーを求めているんじゃないかと思う。 「たまたま運が悪かっただけ」ということを受け入れられないのは、年齢を重ねるなかで、自分の人生がストーリーになってしまった人ほど強くなるんじゃないか。 「自身の決断の結果として今の自分がある」という自信が強いほどそういう傾向になるんじゃないかという気がした。

私たちは、人生で遭遇する大半のことはランダムであるという事実を、どうしても認めたくないのである

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必要なのは、不確実性の存在を認め、重大に受け止めることである

うまくいったときは幸運だったなと思い、うまくいかなかったときは不運だったなと思い、成功や失敗の結果だけで人を判断せず、過信しないように気をつけようと思った。

感想

紹介した引用以外にもたくさんマーカー引いたところもあるんだけど、とにかく示唆に富んでいて、読んでよかった。 多かれ少なかれ、規模の大小はあれど毎日人は何かしら意思決定の連続で生きているわけで、すべての判断に対してバイアスを受けないように慎重に取り組むのはとても心が保たないと思うから、ある程度はどうしようもなく自分が人間であることを受け入れて諦めつつ、 重要な意思決定の場面では、主観・直感はまったく信用出来ないぞ、というのを心に刻んでいきたい。

人間に意思決定はまだ早いし、はやく人間が意思決定しなくてもAIがディープラーニングとかいうやつで全部決めてくれる世界になってほしい。